
自家工作のすすめ
第46回セントラル硝子 国際建築設計競技 優秀賞受賞
岩田英里と共同作品
ガラスに親しみを感じることはできないだろうか。これが私たちの出発点である。
ガラスは近現代建築の象徴であり、都市生活のイメージの代名詞といってもよいだろう。また日用品としても私たちの生活のあらゆる所に存在し、日常に欠かせないものである。
しかし私達はどこかで作られる工業製品か、芸術家による工芸品という二極化した姿しか知らない。消費という形でしか関わっていないゆえに、ガラスに対して、縮められない距離感のようなものを感じた。
ガラスをもっと自由に扱うことはできないか。
そこで生活空間を手作りする生活スタイルのモデルとしてヴァナキュラー建築に着目した。彼らは建築することを通して素材そのものに愛着のような感覚を持っている。このような場所で、日干し煉瓦で家を作るような技術で手作りすることができるガラス建築を考えた。
具体的には、陶磁器の窯の内側に釉薬が飛び散ってガラスの膜をつくる様子をヒントに、3~4人の手で作ることができるドーム型ガラス建築を提案する。
工程は次の通り。
1土を盛り煉瓦などで固めて窯の形の型枠を作る。
2型枠の内側に粘土を塗り,その上から灰などを混ぜたガラス成分を塗る
3窯を燃焼しガラスを溶かして固める
4土の型枠をはがす
5完成、建築として使われる。
6必要がなくなったらこれを壊し、小さな破片に戻す。材料の形になったガラスは、またどこかで必要になるときまで保管される。
手作りすることに加え、もう一つ重要な点が「壊れる」という点である。
ガラスは人類が作り出した素材であり自然素材のように土に還る事ができない。
しかしそのかわりに劣化する事なくいつまでも使い続けられる永久素材である。ときに建築として使われ、必要がなくなったら破片に戻る。そして次にまたどこかで必要になったら運ばれ成形される。
世代を超えて使われてゆくことで、「わたしの」そして「我が家の」ガラスになり、生活に密着した大切で身近な存在となってほしいと考えた。
また、集落の何人かで協力して作るという点も重要である。生活空間をつくる行為とコミュニティの形成が統合的に行われるということは、懐古的な意味ではなく、私たちの生き方のヒントとなるのではないか。
さらに、ヴァナキュラー建築は地域の風土に適応した空間である。自然環境を熟知したその技術でガラスを扱う事ができれば、工芸的な唯一性も持ちながら、自然条件という建築の根本的な部分に対応した新たなガラスの形を見出すことができるだろう。あらゆる地域、あらゆる生活の中で展開してゆく可能性を持っている。
2050年、さらに進化しているであろう最新技術のガラスを使い、ヴァナキュラー建築に代表される、古来からの生きるための原理的な方法で作る。
都市建築の象徴であるガラス建築が、生産性を持ち生きることに密接に結びついた存在になるということが、人々の建築そのものへの認識を変える提案になると願いたい。